こんにちは。ヴァイオリニストの塚本香央里(つかもとかおり)です。
4月の終わりころ、姉から連絡がありました。
「歩行訓練でお世話になった先生がテレビに出るの。見てあげて!」
実はこの番組、以前に姉が取材されて出演していました。
視覚障害者がどのように生活しているのか、特に初老の中途視覚障害の場合はどんな様子なのか。丁寧な取材と姉のわかりやすい説明で、とても良い番組構成でした。そして姉の生活を支えていたのは様々な訓練でした。点字訓練、生活訓練、ICT訓練・・・。
今回はその訓練の中でも歩行訓練士のお話でした。
外を歩くことって見えない人には怖くてしょうがないことです。外へ出たとたんに方向感覚がわからなくなり、あちこち彷徨っていたら・・・遭難します。停車中の車にぶつかったり、子どもを蹴飛ばしてしまったり、自分の命を失うこともあります。白杖をコツコツとしていて「うるさい」と怒鳴られたり、スマホの画面に夢中で正面衝突することもあるそうです。姉も何度かケガをしました。
姉は見えにくくなってきたとき、怖くて外が歩けなくなったそうです。家にじっと引き籠って「人生終わった」と思っていたと言います。
そこを歩行訓練士の先生と訓練を続けることによって、慣れた場所であれば単独行動ができるようになっています。(並大抵の努力では、ここまでできないです。姉の根性と負けず嫌いなところが良く表れている・・・)
私は一度だけ、歩行訓練の見学をさせてもらったことがあります。
白杖の振り方に迷いがあったり、人込みに流されて方向を見失いそうになると「ハイ、今のところもう一度行きましょう」とサッと腕を取って安全な場所から何度もやり直します。当人も「何がわからなくて、どうなったのか」をきちんと説明することによって、自分が不得手だと思うところを判断し、感覚の鋭い器官をつかって補っていくという作業が繰り返されていました。私が見学した時は、駅から駅への移動と、駅を出てから目的の建物へ向かうための訓練でした。駅構内の移動は「他の人の流れに一緒に移動する」という方法で、点字ブロックに頼っていませんでした。点字ブロックは万能ではなく、時に他の人の行動を邪魔してしまうとのこと。なるほど、と思いました。
「ここは少し空間が大きくなっています。わかりますか?」「あぁ、右方向に空いている感じですね」
「このあたりは道が狭くなっているので止めてある自転車に気をつけた方がいいですね」「本当ですね。杖が当たってちょっと狭くて歩きにくいです」
そんな会話を続けながら、目的地までを行ったり来たりしながら訓練が終わりました。
歩行訓練は、訓練を受ける人それぞれのオーダーメイドのようなもの。訓練士がその特性を見極めて、本人が安心して歩けるように様々なヒントを投げかけます。訓練生自らがそのヒントを受け取って感覚を開いていき自信をもって歩く姿勢をつかんでいきます。基本的な方法論はあるけれど、そのあとはその人だけの特性を最大限に活かすこと。視覚障碍者にとって安全に歩けるということは、自分も社会の一員であることを確認する喜びでもあるのだと思いました。
見学しているだけでもヘトヘトですが、本人も訓練士も大変です。
それでも、視覚障害者が安全に出かけることができるのは本人にとってこの上ない喜びです。
でも、その歩行訓練士がいかに少ないことか。資格も保証もなく生計を立てていくのは難しい。そこをもっと政府に働きかけて歩行訓練士を増やしていきたいと説明していました。