「国宝」(吉田修一)
映画「国宝」を見たのは去年の6月。ぼんやりと電車に乗っていた時に、予告編が流れていた画面にくぎ付けになり「これは見に行かなければ」とすぐに映画館へ行きました。あの時の興奮は未だに忘れられません。
そしてこの冬の冬眠時期に読了しました。
映画とは全く違う物語でした。
歌舞伎という芸術世界を生きる者が、俗世をどう生きるのか、生きていかなければならないのか。
そのまばゆいばかりの光と闇よりも濃い影を併せ持つ役者が人間としてどうやってバランスをとるのか。
「虚」と「実」のはざまの「狂気」の中で生きていることを、私自身も50代後半になって理解することができるようになりました。
そして、登場人物それぞれが「狂気」との狭間でもがく様子にほんの少し共感をもつことができたのは、自分も舞台を知っているからかもしれません。
語り口も独特で、大河ドラマの語りを聞いているような流れでした。
キーポイントとなるセリフが「あぁ、ここで言っているのか」と腑に落ちる瞬間もあって、それは映画を見たゆえの楽しい答え合わせの瞬間でもありました。
そういうことができるのは、映画から原作を読む楽しさでもありますね。
心に残った美しい文章
『悲しみを湛えた色。愛する人を失った悲しみがにじんだ湖面。失ったものが増えれば増えるほど湖面はその色を増し、まるで黒真珠のように鈍く輝き出す』
そんな人になりたいと思いました。