こんにちは。ヴァイオリニストの塚本香央里(つかもとかおり)です。
以前は、音楽家は黙々と演奏することが仕事でした。
客電が消えて
舞台が明るくなると
演奏者が舞台へ現れ
淡々と音楽を奏でる姿を
聴衆はひたすら食い入るように見つめているだけでした。
それは、当たり前のこと。
普通の事でした。
私がドイツへ留学した時に
曲目解説をしながら演奏するスタイルに初めて出会い
衝撃を受けました。
(そもそも、入学試験の時に
自分の演奏する曲目を目の前にいる教授たちに言わなければならず
しどろもどろで話した記憶があります。
それは、言語能力を測るためでもあったのですが・・・)
私が一番記憶にあるのは
クララ・シューマン(ロベルト・シューマンの妻)の作品を紹介するコンサート。
ピアニストの女性が
ピアノ曲・ヴァイオリン曲・室内楽曲を紹介しながら演奏するスタイルは
さながら大学の講義のようなコンサートでした。
聴衆もとても興味深く聞き入り
演奏後はピアニストに質問する人たちでいっぱいになり
「さすがドイツ人だわ」と感心したものです。
私がレクチャーコンサートをしてみようと思ったきっかけは
まさにそのコンサートで
帰国してすぐに真似をして始めました。
約30年前の事です。
ただ、話す労力と演奏する労力は全く違います。
話に夢中になると
息が上がってしまって演奏に集中できない。
演奏に集中すると
話すことを忘れてしまう・・・
毎回、試行錯誤の連続でした。
それが今では、演奏者が話をするのは当たり前の時代。
その魅力のために、コンサートに足を運ぶお客様が増えたことも確かです。
ただ・・・
私が気をつけている唯一の事は
お客様の一歩先を行くこと。
プロとして演奏するならば
ひとつでもプロらしい視点からのお話を
持ち帰っていただきたいということです。
曲目や作曲家、その時代の出来事や背景は
調べれば誰でも情報を得ることができます。
そのうえで
私たち音楽家が実際に演奏して感じたこと
共感・違和感・疑問などを
自分の言葉で語れるようにしたいと思っています。
言葉は大切。